--/--/-- --時--分 (スポンサー広告)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
    
2016/08/14 01時42分 (ツノトンボ科)
 ツノトンボ科には大きく分けて昼行性と夜行性のグループがあります。キバネツノトンボのように昼間に活動する種は全体にハチのような黒と黄色の鮮やかな体色をもち、オオツノトンボのように夜間に活動する種は翅が透明でほとんど黒一色の目立たない体色をしています。


DSC_0158_s.jpg
キバネツノトンボ Libelloides ramburi


オオツノトンボ Protidricerus japonicus


 特筆すべきは、両者の複眼の違いです。昼行性のツノトンボは複眼の上下が分割されていて、上(背)側の眼は下(腹)側の眼の上に乗っかって突出しているように見えます。この複眼の各特性については、(ざっくりいうと、)昼行性種の腹側の複眼 ventro-lateral eye (VL)は紫外領域への感受性が高くありませんが、背側の複眼 dorso-frontal eye (DF)は紫外領域の感度が高いとされています(Mayer & Kral 1993; Gribakin et al. 1995; Kral & Stelzl 1998; Stus̆ek et al. 2000)。この高感度なDFは昼光下で飛翔する昆虫(ツノトンボの主な餌となる双翅目など)を、紫外線を利用して発見・捕食するために役立つと考えられます(Gogala 1967)。このあたりの事はKral (2002)のレビューに詳しいです。

 しかし近年、Belušič らが昼行性のLibelloides macaroniusを用いて行なった研究(Belušič et al. 2010)では、DFとVLの紫外領域の感受性は同等であることが示されています。
これ、それぞれの眼について調べていれば初期の研究でわかっていそうなものですが…どうもDFの方ばかりが注目されてしまうせいか、VLの機能については先行研究の引用(しかし誤解釈されながら)で済ませられていたりして、きちんと検証されてこなかったみたいです。

結局、Belušič らによると2種類の眼の違いは、
DF…日中下でのコントラスト・動体検出に特化する為に紫外領域以外の感度が低い。また、視野が極端に狭い。
VL…紫外領域から緑色領域の一部波長まで。視野が広い。


ということになっており、昼行性ツノトンボは、得意領域の異なる2種の眼を状況に応じて使い分け・組み合わせることで、空中での高度な狩りを可能にしているものと思われます。
Stusekは獲物の大きさが5mm程度の場合、1m以上離れた場所からでもこれを発見できる能力があるとしているほか、Belušič は大きなハチ(たぶん数cm程度)であれば2mの距離からもこれを捕捉できると言っています(Belušič, 未発表)。

このように昼行性ツノトンボの複眼には実は凄い能力があるということなのですが、これはツノトンボだけが特別なものを持っているというわけではなく、チョウやハナバチなどの昼行性の昆虫においても複眼上部の紫外線感受性はツノトンボのそれと同等かそれ以上に優れていることが分かっています。さらに言えば、チョウやハチは色覚も発達していて広い波長の光を認識できるので、ごくわずかな色覚しか持たないツノトンボよりも遥かに高度な眼を持っているようです。(長くなりそうなので別の機会に)


 それから、Fischer et al. (2006) によるアフリカ・アジア・ヨーロッパのツノトンボ13種を対象に複眼構造と各種の生息地・系統・活動時間との関連性を考察した研究によれば、複眼が上下分割された(ように見えるが実際には境界部が溝状に凹んでいるだけで連続的)ものは昼行性・薄暮性・夜行性種の全てにおいて見られましたが、複眼が分割されないものは夜行性種のみで確認されるそうです。
一般に非分割眼の種は林内のような植生の密な空間を好み夜間に飛翔し、分割眼をもつ種はオープンランドを好み日中のみ飛翔します。一方で、分割眼を持つものの昼間は飛ばず、薄暮から夜間にかけて活動する中間的な薄暮性の種が少なからず存在していました(生活圏は草地だったり林内だったりと中間的?)。この論文では、現存のツノトンボの祖先種はもともと非分割眼(夜行性)で林内のような環境に生息していた(Nilsson 1989; Gaten 1998)が、その後草地などオープンランドに進出し昼行に適応する過程で(夜行性⇒薄暮性⇒昼行性へと)分割眼が進化したものと推測しています。


ちなみに、日本に生息するキバネツノトンボ、ツノトンボ、オオツノトンボ、オキナワツノトンボ、ヤエヤマツノトンボの5種をみてみると、これらのうち非分割眼を持つのはオオツノトンボのみのようです(手元に2種しかないのでネット画像で確認)。明らかに昼行性であるキバネツノトンボ以外の3種はその外見やライトトラップに集まる習性から、おそらく薄暮~夜にかけて活動する薄暮性のグループなのだと思います。実際に見たことはないので、本当のところはわかりませんが。


参考に、国産ツノトンボ2種と海外産4種の頭部写真を以下に載せておきます。一応、非分割と分割眼の違いくらいはわかるかと。
Libelloidesはどれも本当に美しいのですが、いい状態の標本はあまり手に入らないのはもちろん(急乾燥で色彩が失われてる上、多くは複眼がつぶれている)、生展翅でないと形が決まらないなど標本にするにはちょっと難しい虫なのが困るところ・・・。あと凄く脆い。

色々と酷い写真ですが、今回は見逃してください。いずれ撮りなおしたい・・・。

2016.8.16追記
Libelloides latinus の画像を差し替え(Helicon Focus(C)で15枚の深度合成)
その他の種はCombineZPで2~3枚の深度合成


L_ramburi_s.jpg
キバネツノトンボLibelloides ramburi (昼行性・分割眼) 長野県松本市


2016-08-16 02-51-33 (C)-3
Libelloides latinus 黄色型 (昼行性・分割眼) イタリア


Libelloides longicornis_s
Libelloides longicornis (昼行性・分割眼) イタリア


L_lacteus_s.jpg
Libelloides lacteus (昼行性・分割眼) ギリシャ


Ascalaphidae sp_s
Ascalaphidae sp. (薄暮性・分割眼) トルコ



Protidricerus japonicus_s
オオツノトンボProtidricerus japonicus (夜行性・非分割眼) 青森県平川市





【文献】

Belušič, G., Pirih, P., Zupančič, G., Stušek, P., & Drašlar, K. (2010). The visual ecology of the owlfly (Libelloides macaronius).

Fischer, K., Hölzel, H., & Kral, K. (2006). Divided and undivided compound eyes in Ascalaphidae (Insecta, Neuroptera) and their functional and phylogenetic significance. Journal of Zoological Systematics and Evolutionary Research, 44(4), 285-289.

Gogala, M. (1967). Die spektrale Empfindlichkeit der Doppelaugen von Ascalaphus macaronius Scop.(Neuroptera, Ascalaphidae). Zeitschrift für vergleichende Physiologie, 57(3), 232-243.

Gribakin, F., Alekseyev, E., Shukolyukov, S., & Gogala, M. (1995). Unconventional ultraviolet sensitivity spectra of Ascalaphus (Insecta, Neuroptera). Journal of Comparative Physiology A, 177(2), 201-206.

Kral, K. & Stelzl, M. (1998). Daily visual sensitivity pattern in the green lacewing Chrysoperla carnea (Neuroptera: Chrysopidae). European Journal of Entomology, 95, 327-334.

Kral, K. (2002). Ultraviolet vision in European owlflies (Neuroptera: Ascalaphidae): a critical. Eur. J. Entomol, 99, 1-4.

Mayer, H., & Kral, K. (1993). Electrophysiological and optical studies of the spectral sensitivity of Mantispa styriaca (Neuroptera: Planipennia). Mitt. DI. Ges. Allgem. Angew. Entomol, 8, 709-713.

Stusek, P., Draslar, K., Belusic, G., & Zupancic, G. (2000). Adaptation mechanisms in insect eyes. Acta Biologica Slovenica (Slovenia).


 
関連記事
スポンサーサイト
Comment:0    
2016/08/05 15時27分 (コガネムシ科)

Aphodius brachysomus

横幅があるので、細身なマグソコガネ類の中ではかなり大きく見えるほう。万年筆のペン先のような形の大きな小楯板が特徴。
北海道から沖縄まで分布するが九州以外では激減してしまった種だそうで、この青森にまだ生き残っているとは思わなかった。

で、ダイコクコガネはどこにいるのか。



関連記事
Comment:0    
2016/08/05 15時18分 (クワガタムシ科)

Aesalus asiaticus asiaticus

新芽に飛来した例は初めてと思われる。
マダラクワガタは赤枯れ材をぶっ壊したものからたくさん採集されているのを見るが、材から脱出した後の成虫の生態についてまるでわかっていないらしい。この時期は意外な場所でぽつぽつスイープなどで採集されているようなので、もしかしたらコルリクワガタなどと同じような類の虫なのかもしれない。

なお来訪する植物が決まってるわけでもなさそうな気がするので、再現性は得られないと思う。


(2016年5月13日撮影 青森県弘前市 Nikon D7100 + TAMRON SP AF 90mm F2.8 Di + extension tube)

関連記事
Comment:0    
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。